2023 年現在、今も行われている首里城の復元作業ですが、首里城の公式サイトや Youtube で復元作業の進捗や現在の状況を知ることができます。
首里城正殿の火災について
- 日時:2019 年 10 月 31 日未明
- 場所:沖縄県那覇市首里城
- 被害:正殿をはじめとする 9 施設が焼失
- 原因:不明
- その後:復元工事が本格的に始まり、2026 年秋の完成を目指して進められている
2019 年 10 月 31 日未明、沖縄県那覇市にある首里城正殿で火災が発生し、正殿をはじめとする 9 施設が焼失しました。火災は約 11 時間にわたり燃え続け、鎮火されました。
火災原因は、電気系統設備が集中していた正殿北東側とみられていますが、県警も那覇市消防局も捜査・調査を終えたものの、原因を特定することはできませんでした。
首里城は、琉球王国の王城として 15 世紀から 19 世紀にかけて造営されたもので、2000 年には世界遺産に登録されました。今回の火災は、沖縄県のみならず、日本全体にとっても大きな損失となりました。
火災後、首里城公園では、沖縄総合事務局、沖縄県、沖縄美ら島財団で連携して、二度と同じような悲劇を繰り返さないよう防災対策を講じてきました。
2022 年 11 月 2 日には、正殿の復元工事が本格的に始まりました。2026 年秋の完成を目指して、現在も工事が進められています。
復元スケジュール
- 令和 2 (2020) 年 3 月:関係閣僚会議において「首里城正殿等の復元に向けた工程表」が決定
- 令和 4 (2022) 年 11 月 2 日:正殿の復元工事が本格的に開始
- 令和 8 (2026) 年秋:正殿の完成予定
復元は壊れたからやるもの
お城が老朽化した際には「補強工事」を実施します。これは復元ではありません。
「昔在ったものを再現する」「破壊されてしまったものを再構築する」これが復元ですよね。
首里城は火災で消失してしまったので復元作業が行われているわけですが、消失してしまったこと自体はとても悲しいことです。記事を書く上でこれは前提として私も思っています。
ただその中で、確実にポジティブな要素を感じる部分もあります。
首里城の復元には「現代的なアプローチ」が活きている
歴史的に価値のある文化財はもちろん当時のままのものが現存できていることに越したことは無い。
としつつも、メインコンテンツの復元に際して、周辺施設の整備も進んでいくという作用が働く。これはとてもポジティブなアプローチです。
例えば映像をつかったアプローチ。
それこそプロジェクションマッピングだったり、 VR, AR のような手法だったり、より世界観に没入できるようなコンテンツが復元と共に周辺の施設に整備される。
あとは、施設のバリアフリー化。
歴史的な建物というのはそれ自体が周遊しにくい(階段が急勾配だったり)が、文化財は昔のままを残したいためそれは復元したとしてもそのままになることは仕方がないとしつつも、メインコンテンツまでの道のり、および周辺施設が当たり前のようにバリアフリー化されていく。
首里城の現状を見ていると、こういった「現代的なアプローチ」がきちんと取られていると感じます。
熊本城もそうだった〜成功した現代的アプローチ〜
熊本城の復元も記憶に新しい。
2016 年 4 月 14 日と 16 日に発生した熊本地震により、熊本城は甚大な被害を受けました。重要文化財 13 棟、復元建造物 20 棟の一部が倒壊・破損し、石垣全体の 10.3 %が崩落しました。
2023 年現在、熊本城の復元は未だ続いていますが、天守閣などメインコンテンツの復元は完了し既に公開されています。
天守に至るまでの道は完全に再整備され、バリアフリー化されました。
天守の中は完全に補強されました。
天守内の階段は上りと下りが一方通行になり、手すりがつきました。日本の城の階段は段差が高く狭いため、これは現存まま残していたら不可能なことです。
各階層のコンテンツは完全に情報が再整理され、映像・模型・遺物・解説文献など、資料展示というコンテンツの中に、情報整理・デザインというエッセンスがより研ぎ澄まされた状態で再構築されました。
こういった「現代的なアプローチ」は、訪れた人々へ、その歴史への理解を促進させます。
これは、わかりやすさ・理解しやすさの面からも有効に作用しますが、何より訪問者がそのコンテンツについて ”わくわく” することで、興味喚起を起こさせることができます。その結果、そこにいる「歴史」の 1 つを知るに至るのです。
多くの人にとって歴史とは退屈なものです。なぜならば過去のことですから。
正直、お城や日本の歴史が好きではないと、資料を深く読み解き、そこにある歴史を知ろうとは思いません。
でも熊本城は有名な観光スポットなので、お城や日本の歴史に興味があろうがなかろうがとりあえず行くんです。なぜならば旅行とは、そういうものですから。
知らない土地だが行ってみたい土地に行く、ということは、とりあえずその土地の有名な場所に行ったり、有名なものを食べたりするものですからね。大抵の場合は。
そうした時に、こういった「現代的なアプローチ」は非常に効果的に作用します。なぜならば退屈しませんから。
興味がなかったとしても、興味喚起され、なんとなくの「面白そう」から入って見た映像資料コンテンツがわかりやすく、面白く触れ手にアプローチするため、訪問者の「へぇ〜そうなんだ〜」を生み出します。
つまり、いつもなら素通りしていた歴史や文化に触れる「機会」が現代的なアプローチによって創出され、訪問者は「知る」ことで満足感を得る。
そして熊本城の天守を出た時には多くの人たちが「楽しかった」と思うでしょう。
熊本城は、地震によって当時から現存していた文化財の多くを失いました。
ですが熊本城の天守は復元され、天守内のコンテンツも一新され、それによって「歴史的に価値の在る場所」に併せて「優秀な観光資源」というポジションも得たと思います。
歴史・文化に観光がきちんとひも付き、訪問者を満足させるコンテンツがある。
「歴史的文化財の復元」という目線で見た時、熊本城の復元はこのように成功事例です。
首里城も失ったものをバネに得てほしい。
首里城の復元に伴う周辺施設の再構築で、映像コンテンツやバリアフリー化など、豊富な「現代的アプローチ」を見ました。
これは熊本城における復元の成功事例と重なる部分が多いと感じています。
さらに首里城では、正殿の再建に際して、宮大工たちの正殿建築作業がいつでも見られるようになっており、復元中であっても首里城公園に行く理由をきちんと創り出しています。
伝統建築技法を間近で見られる機会なんて早々ありませんから、とても貴重な体験が提供されていると思います。これはとても素晴らしい取り組みです。
また、首里城復興基本計画にも、歴史・伝統・文化ををより現代的なアプローチを以てコンテンツ作成を行う旨の記述があるため、現在見て取れるもの以外にも、益々の情報再構築が行われていくと予想されます。
前述の通り、災害で歴史的価値のある文化財が破壊・消失してしまうことはとても悲しいことです。
でもいつまでも泣き言は言っていられません。
そこから復元・復興を行う上で、現代だからできる観光整備が進むのはとても素敵なことだなと思います。熊本城もそうだったように。
首里城正殿の火災は、沖縄県の歴史と文化にとって大きな痛手となりました。しかし、復元工事の進捗状況を見ると、首里城の再建への機運が高まっていることがうかがえます。
首里城正殿の再建が、沖縄県の復興と発展につながることを願っています。
(最後に、本記事のサムネイル画像になっている、首里城の正殿の写真は、2011 年に撮影したものです。)